ある男の物語。

August 15 2005 20:52

昔、ある所に一人の男がいました。
男は、恙無い暮らしを送っていましたが、
ある日から、大きな悩みを抱えてしまいました。
とても素敵なものを見つけてしまったのです。
ただし、それを手に入れるためには、今持っているものを失ってしまうのです。
 
男は悩みました。
どちらを選べばいいのだろう。
男は、新しい素敵なものに心を惹かれていました。
でも、今持っているほうを失うのも怖かったのです。
周りの人も口々に言い立てます。
「やめなって、そんなこと」
「周囲の人の迷惑とか考えてみなよ」
「最低だよ、そんなの」
今持っているものを捨て去るのは、たいへんなリスクを負います。
悲しむ人も出てきます。
何人かの人には後ろ指を指されることもあるでしょう。
結局うまくいかなくて、何もかもを失ってしまうかもしれません。
 
男はついに決心しました。
「周囲の人に迷惑をかけたりしなくないしな。今回は我慢しよう」
そうして、男はささやかな幸せの中、この先も暮らすのでした。
 
何十年もの月日が経ち、男がついにこの世を去る時が来ました。
病の床で男は自分の何十年を振り返ります。
そして最後に思ったことは、
「俺の人生、これで良かったのかな?
もっと大きな幸せを得ることができたような気もするし。
ちょっと、悔しいなぁ」
 
そんな、ありふれた男の、ありふれた人生。
男は、幸せでした。
本当に、幸せでした。
でもそれは、決して大きな幸せではなく、
とてもささやかな幸せでした。


Categories: つらつらと。

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